近視抑制治療
近視が過剰に進行することで生じる屈折異常に対しては眼鏡やコンタクトレンズの装用が必要になります。生活が不自由になる場合もあります。例えば、普通自動車の運転免許には両眼で0.7以上、片眼で0.3以上の視力が必要であり、これに満たない場合は眼鏡やコンタクトレンズで矯正しなければ車を運転することはできません。
近年、問題になっているのは強度近視人口の急増です。強度近視人口は2000年には1.6億人(有病率2.7%)であったものが、2050年には9.4億人(有病率9.8%)、実に5.8倍になると言われています。過剰に進行した強度近視では眼鏡やコンタクトレンズでは矯正視力が出ず、運転免許を取得できないばかりか、日常生活に支障が出ることもあり大変危険です。
また、強度近視になると、眼軸長が過伸展する(眼球が楕円形になる)ことにより網膜や脈絡膜に病的な変化が生じて、黄斑変性症、網膜剥離、緑内障など失明につながる眼疾患に罹患するリスクが高まることが知られています。
今後もデジタル学習環境やスマホの長時間使用、インターネット環境によってますます近業が多くなることは間違いありません。学童期から近視進行を抑制することは、視力低下による生活面での不自由さや近視に伴う眼底の病的変化の予防に繋がるのです。
こどもの発展途上の眼球は、視覚的環境に合わせて眼軸長を制御する仕組みが備わっており、クリアな視覚映像が眼軸伸展の停止信号になります。一方で網膜後方へのデフォーカス(調節ラグ)が眼軸伸展を加速させる引き金となることがこれまでの研究で分かっています。視距離が短くなると、調節反応は鈍化し、調節ラグは増大します。増大した調節ラグが眼軸伸展を引き起こすのです。
通常濃度(0.5%~1.0%)アトロピン硫酸塩点眼液が強い近視進行抑制効果を示すことは古くから知られています。また、近視進行に際しては副交感神経系が優位になることが知られています。副交感神経系優位では、屈折度の近方化、調節微動の増大、縮瞳を生じています。アトロピンは網脈絡膜にあるアセチルコリン神経受容体を阻害することで、眼軸長の視覚制御を無効にするのではないかと言われています。しかし、この濃度では散瞳による羞明、治療中止によるリバウンドなどが問題視されており、予防的治療に用いるには倫理的に問題がありました。
しかし、2012年、シンガポール国立眼科センターが実施した研究(Atropine for the Treatment Of children Myopia 2:ATOM2)において濃度を希釈した0.01%アトロピン硫酸塩点眼液が平均60%の近視抑制効果を示すことが報告されました。副作用がほとんどなく、治療中止後のリバウンドもありませんでした。2019年に報告されたLAMP studyでは平均抑制率は27%、眼軸長では平均12%の抑制効果が得られています。日本の7大学共同研究であるATOM-Jでは2年間の抑制率は屈折度15%、眼軸度18%と報告されています。どの研究でも一定の効果は得られており、現在、日本で受けることができる近視抑制治療としては最も安価で最も安全な治療法であることは間違いありません。
日本で行われている有名な治療にオルソケラトロジーがあります。中心曲率がフラットなハードコンタクトレンズを就寝時に使用し、角膜上皮細胞の再分布と角膜曲率の再形成により、日中に眼鏡やコンタクトを装用不要にする治療法です。周辺網膜で後方へのデフォーカス軽減による近視抑制効果が期待できます。抑制率は眼軸長において30-63%と低濃度アトロピンと同様に様々な報告がされています。
ただし、この治療法にもデメリットはあります。10万円以上の経済的負担を伴うこと。また、就寝中にハードコンタクトレンズを装用するため結膜炎や角膜障害のリスクが伴います。標準的治療が確立されていないのが現状であり、英国では近視進行抑制を目的とするオルソKの使用は臨床試験のみに限定されています。ただ、低濃度アトロピン治療との併用に高い効果があるとの報告もあり、患者様の状態や生活習慣も考慮して臨機応変に治療法は選択できます。オルソKによる治療を行なっている方は定期的に診察を受けましょう。
DISCレンズはレンズ中央部に、同心円状に遠用部と近用部を交互に配置したソフトコンタクトレンズです。これまでに報告されている研究結果では3年間の平均抑制率は屈折度で59%、眼軸長で52%と極めて良好な結果であり、すでに欧州や中国、シンガポールでは近視進行抑制用コンタクトレンズ(MySight™、CooperVision社)として販売されています。日本での販売が待たれます。
近視抑制眼鏡として香港や中国で販売されているDIMSレンズのほか、多焦点ソフトコンタクトレンズ、特殊非球面レンズなど各国で数多くの研究がされており結果が待たれます。
※注意:治療薬は国内では生産されていないため、現在のところ、当院では完全自由診療となります。
検査と説明を行います。
治療に承諾いただいてから低濃度アトロピン点眼薬(3本)を処方いたします。
治療開始濃度は個人によって異なります。
初回は1カ月後、2回目は2カ月後、それ以降は3カ月毎に受診をお願いします。
近視抑制効果が出現するのは4ヶ月以降と言われています。
2年以上の点眼継続をお勧めしています。
薬剤3本で別途3,000円が必要になります。
WEB予約
|
アクセス
|
TEL
|